例え上手は・・・
日本人は「柑橘」の香りが好きだと言われます。
確かに、高温多湿な風土のこの国で、軽やかで爽やかなその香りを心地よく感じるのは事実ですが、 個人的に、日本人の香りの好みはここ10年ほどで激変したように感じます。
デパートのお化粧品売り場や、ファッションブランドに置かれている香り。過去と比べて「甘い♡」。
1月最初のブログで少しだけお話しした「香調」をお伝えするために、「柑橘系」と「(お菓子のような)甘さ」を例にしてみました。
香りを嗅いで楽しむうちは、感じるままに、「これ好きー」「これ苦手!」という分け方で◎なのですが、 たくさんの香料を組み合わせてひとつの作品を作るとなると、好き嫌いに関わらず、便宜上、香りを何らかの系統別に分類する必要が出てきます。
長い年月をかけ、「香調」なる分類は発展してきました。
ただ、みなさまご存知の通り、香りというものは、自分が感じたままを人に伝えるのがとても難しい。
例えば、ひとことに「柑橘系」と言っても、それがレモンなのか、柚子なのか、温州みかんなのかによって、香りは全く異なります。
それらの違いが分かった上で個々の香りを組み合わせ、ひとつのまとまった「作品」として表現できるようになるために、ひとつひとつ、香りを記憶していく。
それが調香を学ぶ最初のステップです。
さて、それではどうやって記憶していきましょう。
あなたの中にある、その香りを嗅いだときに感じたことを他の人と共有するために。あなたならどうやって伝えますか?
ことばで語りますか?それとも詩を書く?絵を描いて見せる?曲にして歌う?踊る?
私は、どれも正解だと思います。目に見えない感覚を複数人で分かち合うには、やり方はいくつあっても良いはず。
私がお世話になっている香水のスクールでは、「色」で香りを分類するメソッドが確立されています。
少しだけご紹介すると、「柑橘系」は、イエロー。果実の色から来ているイメージなのでしょう。
昔から色が記憶の手助けをしてくれていると実感している私にとって、このメソッドはとても有効でした。
実は年末から今年にかけて3回ほど、アシスタントとして香水の講座に参加してきました。
アシスタントとはいっても、香りを試す紙(「ムエット」と言います)に香料や参考香水を付けて生徒さんに配ったり、 生徒さんの調香した作品を嗅いで印象を伝えたり、講座の様子を写真を撮ったり・・・という程度で、大したことは何もしていないのですが・・・それでもなかなか得難い機会、存分に楽しませていただきました。
調香の講座の様子をお伝えするにあたり、比較対象としてお料理教室を例にとってみます。
お料理教室は、たいてい「その日のテーマ」があると思います。
「和食」「イタリアン」「中華」といった食文化ごとの分け方だったり、 「パスタ」「ケーキ」「離乳食」といった、食材、カテゴリーの一分野や用途に特化していたり。
香水の場合でも「今日はみんなでシャネルの5番を真似て作りましょう」というような講座もあるのですが、 今回の講座は「アトリエ」と言って、各自の進度に合わせて香りを作っていきます。
その様子をお料理教室になぞらえて視覚的に例えるならば・・・あちらの方はスパイスからこだわりのカレーを製作中、こちらの方はお手本に忠実にフルーツパフェを盛り付け中、そして先生と私は味見係・・・ といったところでしょうか。
そんな妄想をしていた時に、その日はじめて講座に参加した生徒さんに先生がこんなひとことを。
「香水の成り立ちを知るために模倣をするのですが、絵を学ぶことに置き換えると、名画をスケッチするのと似ていますね。」
なるほど。とても腑に落ちる言葉でした。
考えを巡らせてふと思うのは、きっと、例え上手は、人と何かを分かち合うのが好きな人。
私も、そうありたいと常々思っています。今年は、思うばかりではなく、行動も。
香りのお話は、まだまだ続きます。
もっと詳しく香りの分類が知りたい、という方には、こちらの書籍を。
よろしければ、お手に取ってみてください。香りの捉え方が変わるはずです。